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拒否権


 国際連合憲章第27条には安全保障理事会の常任事理国は拒否権を持つことが明記されている。
 拒否権(veto)という言葉はこの第27条に直接表記はされていないが、「手続き議案を除く全ての安全保障理事会の決定は常任理事国の(一致した)同意投票(the concurring votes)を含む9理事国の賛成投票によって行われる」という表現で常任理事国のうちの一か国でも反対投票をすれば議案は成立しないことにより常任理事国の拒否権が付与されてる。
 安全保障理事会は国際平和と安全に関する国連の最高議決機関であり、加盟国に対してその議決は拘束力を持つことが規定されている。

 安全保障理事会における常任理事国は第二次世界大戦の戦勝国である、中華民国(1971年より中華人民共和国が継承)、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦(1992年よりロシアが継承)、グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国(イギリス)とアメリカ合衆国の5か国であり、退任の任期のない恒久的な立場が与えられている。
 要は、大戦後国連を創始した戦勝主要国が自分たちの立場を保証する制度を国連に組み込んだのが拒否権を持つ安全保障理事会常任理事国ということになる。

 国連の加盟国は1945年設立時の51か国から現在(2017年10月)の193か国に約4倍に増加している。
 一方、安全保障理事会は常任理事国の数は5か国に固定されたままであり、非常任理事国は6か国から現在の10か国になり、合計15か国の理事国で構成されている。

 国連総会は「国際の平和と安全」以外の重要事項は出席国の3分の2、それ以外は過半数の賛成をもって決議する権限を持つが、「国際の平和と安全」に関する事項はあくまで安全保障理事会に対する勧告しか決議できない。また、安全保障理事会の非常任理事国の選任は行うが、常任事理国を選任する権限は持たない。

 国際紛争や核兵器保有など国家間の対立に関わる事項は全て「国際の平和と安全」に関わることであり、安全保障理事会が国連としての最終決議をすることになり、常任理事国が自国の利益に反すると判断した場合には拒否権を使えばどのような議案であろうと否決することができる。
 世界の平和と安全に関して、常任事理国の国益が全てに優先され、それに対して全加盟国が参加する国連総会は常任理事国の顔を伺いながら勧告することしかできない。

 常任理事国の拒否権があるがゆえに、国連は世界平和に関して無力となっている。

 大戦後、世界の秩序と平和を構築・維持するために創立された国際連合は3四半世紀経ち矛盾が露呈してきている。
 ロシアが旧ソ連領に武力侵略して占領しても、中国がチベットを武力占領してもまた南シナ海のサンゴ礁を人工島に変え占領しても、シリアで政府軍が化学兵器を使用しても、イスラエルが武力でガザ地区を植民化しても、国連は何も効果的な対応ができなかった。全て、米国、ロシア、中国のエゴがまかり通ってきている。

 米国が世界の警察官として場合によっては国連軍の旗をもって紛争に介入しても、これは米国の国益のためというエゴによっての行動であり、米国に対立するロシアと中国によってその対抗措置がとられ結局解決に至ることはない状況が一般化している。また、近年の米国の国力の衰退もさまざまな局面で顕在化しており、米国主体の国連軍も限定された状況でしか機能できなくなってきている。
 国連は超大国による力の論理によってその歴史を刻んでいると言えよう。

 世界平和にとって最大の課題である核兵器の廃止は、最も多くの核兵器を持っている国が常任理事国であり、これらの国が自国のエゴを通せる仕組みが国連に組み込まれている限り、不可能なことと思える。
 常任事理国の「拒否権」を廃止することが抜本的な解決であるが、「拒否権」があるかぎりできない。
 これが現在の国際連合の唯一最大の矛盾であると思う。

 極論に聞こえるかもしれないが、私は、もし拒否権を廃止することができれば、国連(UN)は全世界の最高の統治機関である「地球政府」に必ず昇華することができると考えている。
 少なくとも、現人類2百万年の知恵が確かなものであったかどうかは、まずはこの一点で検証できるのではないだろうか。

[参考文献など]
「拒否権、他 Wikipedia以下項目を参照。
 国際連合憲章、国際連合総会、国連憲章テキスト、実質事項、国際連合安全保障理事会、国際連合加盟国、国際連合安全保障理事会常任理事国、国際連合安全保障理事会改革、国際連合本部ビル、フランス第四共和政、他
UN Charter (full text)