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成住壊空とは


 成住壊空(じょうじゅうえくう)とは仏教で説く四劫(しこう)のことで、成劫、住劫、壊劫、空劫のことをいう。
 宇宙に存在する全ての生命体や物質や現象は例外なくこの四段階を繰り返しながら存在する、という法則を四劫もしくは成住壊空と呼んでいる。仏が覚悟した真理のひとつである。

 ちなみに劫はサンスクリット語のカルパ(kalpa)の音写漢訳で、非常に長い時間をいう。仏法では具体的な年数では定義されていないが(仏法の宇宙観からすれば、地球が太陽を一周する時間である年を宇宙時間の尺度に使用することすら主観的な偏頗な見方となってしまうであろう)、場合によっては永劫もしくは無限長の時間と同じように使われることもある。

 成住壊空を普遍的な言い方で説明するとすればおおよそ次のように言えるのではなかろうか。
 ① 成劫(じょうこう)とは、宇宙(時空間)になんらかの環境を伴った場が生じ、そこに生命形態が生ずるまでの期間。
 ② 住劫(じゅうこう)とは、その生じた環境世界なり生命体が安定して存在している期間。
 ③ 壊劫(えこう)とは、その環境世界や生命体が破壊されていく期間。
 ④ 空劫(くうこう)とは、その環境世界や生命体が消滅したあと宇宙に空(くう)の状態になっている期間。なお、仏法でいう空とは虚無ではなく、有無を明確に区別しにくい状態、別の言い方をすれば宇宙に冥伏して溶け込んだ状態とでもいえよう。なんらかの縁に接して無に見える状態から有として顕現する可能性を秘めた状態が空ともいえる。
 ⑤ 尚、空は再び成に変化していき、成住壊空は過去から未来に永劫にわたって繰り返されていく。

 初めに述べたように、成住壊空は宇宙に存在する全ての物や事象についていえるとされている。
 人間の場合に例えれば、成劫とは誕生までの期間であり、住劫は人生の主要期間(少年期から壮年期)、壊劫は老年期、空劫は死後に相当するのではないか。
 地球にあてはめてみれば、過去の超新星爆発などで散らばった星間物質が再び集まって太陽が誕生し、その環境世界の一部としておよそ46億年まえに原始地球が形成されたといわれており、この地球誕生期間が成劫といえよう。住劫は原始地球が誕生したあと組成変化を伴いながら生命が誕生し、生命活動が維持できる環境が整い、更には人間への進化もできる惑星として進化してきた現在までの期間とこの安定した変化の状態が続く期間といえよう。壊劫は太陽自身が何億年かすると老年期を迎え膨張し地球をも呑み込んでしまい地球が消滅してしまう時がくる。この太陽の膨張による地球破滅とは別に他の天体の地球衝突などでの地球滅亡のありえるが、いずれにせよいつか必ず地球が破壊される時がやってくる。空劫は、地球がその姿を大きく変えて滅亡した後、地球を構成していた物質は何らかの物質やエネルギーなどの形で宇宙の中に拡散していく時を迎える。
 人間の場合と地球の場合を例にとって成住壊空の姿を述べてみたが、生物・非生物を問わず、また、物質・非物質を問わず、更には全ての現象も成住壊空の真理から免れることはできない。

 いつか必ず壊劫をむかえ滅するということは、どんな物にも現象にも寿命がある、ということであるが、本当に全ての物・事象に寿命があるのであろうか?
 一人の人間に寿命があることは既知の事実であるが、生物としてのヒト(人類)にも寿命がある。現在のホモ・サピエンスが十数万年前に誕生したことを考えればこれも当然のこととわかる。また、政治、経済、文化などの人間に関わる現象についても、人間・人類に寿命があることを考えれば、これらにも当然寿命があることになる。
 素粒子の一種であるボース粒子は非常にエネルギーの高い粒子であるが、寿命は10の25乗分の1秒という極めて短い。成住壊空の変化もその短い時間の間に起きていることになる。
 現在、我々が知る限り最も寿命が長いものは何かというと、それは陽子(原子の構成要素のひとつ)である。寿命が長い、というより正確に言えば、陽子の寿命はどのくらいなのか未だ分からないということである。年が経つにつれ陽子の推定寿命は伸びてきている。10年程前であれば、陽子の寿命は10の30乗年と言われていたが、現時点では少なくとも(平均寿命は)10の34乗年以上であろうと言われているが、未だそれも確定できていない。

 陽子は永久に存在し寿命はないのであろうか? 陽子は成住壊空の法則の唯一の例外なのであろうか。
 この解答は、陽子にも寿命がある、ということである。
 なぜ陽子にも寿命があるといえるのであろうか。現在、私たちが観測できる宇宙は約138億年前のビッグバンを始めとする膨張拡大の過程を経てできあがった、とされている。この138億年というのは10の10乗年の1.38倍であり、陽子の予想される寿命からみればはるかに短い期間となる。現宇宙にある陽子は間違いなくビッグバン以降に誕生したものであり、ビッグバン以前の宇宙にあったはずの陽子ではない。ということは、ビッグバンもしくはその前の段階で陽子は一旦は破壊され別の状態にあったはずであり、陽子にも寿命があったということが言えることになる。
 ビッグバン以前の先宇宙を認めない人もいるようであるが、完全な無というのは存在しないことを認めるのであればビッグバン以前にも何らかの状態の先宇宙が存在していたことを否定できないことになろう。
 ビッグバン発生時には陽子は存在しなかった、ことはビッグバン論者も周知認めるところであり、従って最長の寿命を持つといわれる陽子にも寿命はある、と言えることになる。
 これもビッグバン自体が大宇宙史の中でひとつの成劫であった、と気がつけば自然に理解できることと思う。

 ここで再度、冒頭に述べたことを確認しておきたい。
「宇宙に存在する全ての生命体や物質や現象は例外なく成住壊空を繰り返しながら存在する」というのは仏法の説くひとつの真理である。
 仏教に共通した考え方に、「宇宙の森羅万象は無常である」とあり全ての事象は変化し変化しないものはない、という人生観・価値観であるが、これは成住壊空の真理に裏付けされているともいえよう。

 しかし、最後にひとつ大事なことを述べておかなければならない。
 無常の対語は常住であるが、宇宙には普遍的に存在する(すなわち常住する)大原理がある、と仏法では説いている。これは成住壊空の真理観に反するようにも思えるが、成住壊空も常住の真理の一分であることを思えば矛盾は生じない。
 この常住の大原理については、別の機会に述べることとしたい。

[参考文献など]
 KOzのエッセイ#041「仏法とは」
 KOzのエッセイ#047 「心の実相 (5) 一念三千」
「真空のからくり」山田克哉著(講談社)2013年

 https://ja.wikipedia.org/wiki/劫
 https://ja.wikipedia.org/wiki/陽子
 http://www.hyper-k.org「ハイパーカミオカンデとは」
 https://ja.wikipedia.org/wiki/地球史年表
 https://ja.wikipedia.org/wiki/粒子崩壊
他。