081multiverse
(仮説)暗黒物質とは?


 私たちが住む宇宙には不思議なことが数知れずある。私たちの知らないことや理解できないことが無数にあり、その内のひとつの謎が明らかになるとそれに関連して更に何倍もの疑問が出てくるため、いつまでたっても謎が増えるばかりで減ることはない。
 宇宙の事象を研究する科学者が一流になると実に謙虚になるのはこのためであろう。

 宇宙の謎のなかでダークマター(暗黒物質)とダークエネルギーはその存在は信じられているが、その実体は何なのかについては全くわかっていない大きな謎となっている。先進国の研究機関がこの探求に膨大な資金と能力を注力しているが、未だその解明には至っていない。

 宇宙を研究する学者がほぼ一致して認めていることは、この宇宙は総じて73%のダークエネルギーと23%のダークマター、そして4%のバリオンから構成されている、ということである。ここでバリオンとは、物質+エネルギーの総和で、アインシュタインのE=mc
2という換算式により物質とエネルギーは等価とみなされる。
 すなわち私たちが住むこの宇宙がなにからできているか、ほぼ96%については未だにわかっていないということである。

 私は本抄でこの謎について私の推論(仮説)を提示したい。

 まず、私たちが現在住むこの宇宙は、3次元の空間と1次元の時間から構成されている。これを3次元時空間と言っているが、話をわかりやすくするために「在空間」と呼ぶことにしたい。
 この在空間は、「縦・横・高さ」という三つの直交した軸を使って空間の位置を特定することができる。一般的には、X軸、Y軸、Z軸である。
 もし、もう1次元高い空間を想定すると、その場合、「縦・横・高さ」にもうひとつ「奥行(おくゆき)」を加えて「縦・横・高さ・奥行」の四つの直交した軸を使って4次元空間が成立する。X軸、Y軸、Z軸にD軸を加えて、4次元空間の位置を特定することになる。
 この4次元の空間と1次元の時間を含めた4次元時空間を、ここでは「高次空間」と呼ばせてもらう。

 もし、この高次空間が存在するのであれば、この高次元空間の一断面が在空間となる。別の言い方をするのであれば、在空間とは高次空間に浮かぶ極々薄い膜のようなものと考えられる。
 身近な例でたとえるならば、もし一枚の極薄いフィルム(紙と考えてもらってもかまわない)を2次元空間とみなすと、このフィルムは3次元空間の一断面とみることができるのと同様である。このフィルムは「縦・横」しかない2次元空間であるからこのフィルムの中では上下方向は無く、この2次元空間での動きは私たちがいる3次元空間から見るとフィルムに描かれた線をたどっているように見える。

 ここで話を、ダークマター(DM/Dark Matter)とダークエネルギー(DE/Dark Energy)に戻す。

 DMは暗黒物質と訳されているが、宇宙の観測を通してその存在が発見されている。宇宙に存在する無数の銀河団(銀河の集合体)の動きを観測して見積もった銀河団の質量(力学質量)とその明るさを計測して見積もった質量(光学質量)は本来同じになるはずにもかかわらず、実際には力学質量が光学質量の数百倍になっている。これは光を出さない(見えない)物質が存在するためとしか説明がつかず、この見えない物質を暗黒物質(DM)と名付けた。
 DMは現在発見されている物質よりも更に小さな未知の物質からできているのではないかとの推論から、各国で巨大な粒子加速器を使ってその発見に注力しているが未だに見つかっていない。

 DEは宇宙全体の膨張の観測からその存在が見つかっている。
 宇宙は今までの知識ではだんだん膨張の速度が落ちてやがて収縮に向かうはずである、と考えられていたが、実際の観測ではだんだん膨張の速度が速くなる加速膨張が起きていることが見つかっている。重力による引力とは反対に膨張をうながす斥力が宇宙全体に働いているとしか言いようのない現象が起きている。
 このDEの密度は質量に換算すると7/10
30 g/m3という非常に薄い密度だが、不思議なことに宇宙が膨張して空間が拡大してもそのDEの密度は薄くならず変わらない。すなわち空間が増えた分だけDEが増えている、ということで今までの知識では全く理解できない現象となっている。

 私はDMとDEとは何かということにつき、次のような推論をしている。以下、私の仮説を提示したい。

 (1)DMとDEは在次元に限定して実体を解明しようとしても限界があり、高次空間の中に位置する在空間という視点から考える必要があると判断している。逆説的な言い方をすれば、DMとDEの発見は高次空間が存在する証拠ではないかと考えている。
 この前提に立った時、DMとDEは下記にように説明できるのではないかと考える。

 (2)DMは、高次空間にある物質・エネルギーの密度が均一でないために発生する。高次空間から在空間に影響を与えるのは重力波であるが、高次空間にある物質・エネルギーが在空間と同様に偏在しているために、そこから発生する重力波も不均一となり偏在し、それが在空間に影響しDMとして観測されることになる。
 端的に言えば、在空間におけるDMの偏在は高次空間の物質・エネルギー密度の偏在のホログラムとみなせる。

 (3)DEは、高次元空間が均一な基礎空間エネルギーを保持しているために、これにより発生する重力波により在空間での均一なエネルギー場が生じ、これがDEとして観測される。在空間においては、重力は距離の2乗に反比例して減衰するが、高次空間から見た場合には在空間内のD軸距離は限りなくゼロに近いため、高次空間からの重力は在空間内では減衰しないと考えられる。
 また蛇足であるが、物理学における真空エネルギーとは高次空間における基礎空間エネルギーの在空間における存在と言えることになるのではないか。

 (4)(追記)4次元空間においては重力は距離の3乗に反比例すると考えるのが一般的かと思うが、私は4次元時空間における物理現象は重力も含めて在空間(私たちのいる3次元時空間)と同じ法則に則っていると考えており、重力も距離の2乗に反比例するとみている。
 これは、4次元空間の定義の仕方の違いによるものかもしれない。私が本抄で述べた高次空間とは、d(D軸座標)の異なる無数の連続3次元時空間の総体を4次元時空間として定義している。

[参考文献など]
「宇宙のダークエネルギー「未知なる力」の謎を解く」土井守・松原隆彦共著(光文社新書)2011年
「宇宙は無数にあるのか」 佐藤勝彦著(集英社新書)2013年
「暗黒ネルギーの謎」Adam G. Riess/Mario Livio共著(日経サイエンス 2016.07号)
「暗黒ネルギーサーベイ」Joshua Frieman著(日経サイエンス 2016.07号)