#025 日本のふろ


日本のふろ


 日本のふろ(風呂)は3S日本文化を象徴する伝統であると思う。3Sとは「清潔」、「節約」、「節度」を言う。

 清潔とは、言うまでもなく日本人の「きれい好き」な風習をさす。いつも体を清潔にしておくことが病気の予防になり健康長寿の大前提であることが身にしみ込んでいる。幼稚園や小学校でうがいや手洗いを学ぶのは外国ではあまり聞かない。不潔感が不快感に直結する国民性を持っている。清潔に保ったふろに入った後、更に上がり湯を使うのが好きなのもこの徹底した清潔感のためであろう。
 節約とは、無駄を極力排し物を大事にする「もったいない」感であり、日本の古き良き伝統である。ふろのお湯を一人だけで使い切ってしまうのは余りにももったいないと思うところがヨーロッパの伝統のバスタブ文化とは異なる。湯沸かし機能がついているのも日本のふろの特徴であろう。ふろにフタがあるのも日本のふろだからこその工夫であり、熱を無駄に逃がさない節約の文化である。
 節度とは、モラルとも言い換えることができるかもしれないが、ふろを使う他の人のために配慮することである。お湯を汚さないために、まず体を洗ってからふろに入る、ふろの中では体を洗わない、ことは日本人の常識ともなっている。

 日本のふろ文化は、3Sに「自然」を付け加えて4Sと言っても良いかもしれない。
 自然とは、日本人の自然に対する親しみであり、くつろぐ場ともなっているふろをできる限り自然に近づけようとする欲求である。岩風呂や檜風呂もその現れてあろうし、できれば風呂場に小窓を付けて庭の木々や、更に欲を言えば自然の風景を眺めながらふろに浸かっていたいという願望がある。タイルばりの機能一辺倒の公衆浴場ですら、壁に富士山の風景画を描くのもこの自然願望の現れなのではなかろうか。
 また、季節季節の境目には、ふろに菖蒲を入れたり、ゆずを入れたりして自然の中に心身を浸す喜びを感ずるのもまた日本人の良き習慣であると思う。

 4S文化の究極の姿が温泉ではなかろうか。特に露天風呂は日本人の最高のぜいたくでもあり、ここに日本文化が極まれりという思いがする。
 源泉からの湯が常に注ぎ込む流し湯は節約に反するのではないかとも思われるが、これこそ節約を大事にする日本人であるからこそ自然からのぜいたくを享受している喜びを感じているのではなかろうか。

 蛇足ながら、私の場合は温めのふろに浸りながら読書するのが好きなので、「書斎」を加えて5Sとなるのかもしれない。これは日本文化とは言えないが。