#015 宝くじの確率

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宝くじの確率


 宝くじを1枚買ったとしよう。今日がそのジャンボ宝くじの抽選発表日だとすると、その1枚が当たるか外れるか非常に気になる話。もし当たれば4億円もらえるかもしれない、と考えると・・・・・。

 今日の午後7時に抽選が開始され7時30分には1等の当選番号が確定する、とした場合、自分の1枚が当たる確率はどうなるのか。
 たった1枚しか持っていないので、わざわざ抽選会場にまで足を運ぶことはしない。インターネットで調べれば8時30分には当選番号が確認できるし。

 自分の宝くじが当たる確率は計算できる。当選総数を発行枚数で割れば何等かを問わない当選確率となり、当選金額の合計を宝くじの発行枚数で割れば、それが期待当選額となる。1等の当選確率はもっと簡単で、1等の当選番号はひとつだけであるから、発行枚数分の一が当選確率となる。

 7時30分に当選番号が確定するのであるから、それより前は、当たるか当たらないかわからないわけであるから、本当の意味で「確率」である。確率というのは、ある事実が確定する前にその事が起きる「可能性」の程度を計算したものであるから、宝くじの場合でも当選が確定するその瞬間より時間的に「前」の時に言えることとなる。
 とすると、7時30分になったその瞬間に何が起きるのであろうか。当選番号は確定した、しかし、自分はその当選番号は未だ知らない。だが当選番号は確定してしまったのであるから、「当選確率」ということは言えなくなってしまった。
 自分の持っている宝くじは当選しているか、外れているか、どちらかである。すると、確率を敢えて言うとすると、「当選確率」ではなく、「当選した宝くじを持っている確率」ということになる。
 確率の内容は大きく変わったことになるが、いずれにせよ、8時30分になって当選番号を確認した瞬間に「当選した宝くじ」を持っていたかそうでなかったが確定する。この瞬間に確率ではなく「事実」に変わる。

 確率と事実は「情報」によって変わる、ということがお分かりいただけたであろうか。

 同じような事が、物理学の世界でも大きな疑問であった。いわゆる「シュレディンガーの猫」という思考実験によって量子力学の不思議な世界が提起された。「起きた」と「起きていない」というどちらかの確率を確定するのは「観察」、すなわち「情報の伝達」によって確定される。確定するまでは相反する両方のことが重なっている状態にある、と言わざるを得ない、という認識が量子力学の基本的な考え方となっている。
 宝くじの例で言えば、7時30分から8時30分の緊張の1時間が量子力学でいう「重ね合わせ」の状態と言えようか。

 日常的に起きている事も生真面目に見直すと何か違ってくる、ということであろうか。

[参照文献]
「シュレディンガーの鳥 生命の中の量子世界」Vlatko Vedral著(日経サイエンス 2011.10号)