#011 虚飾の冠

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虚飾の冠


 昭和44年(1969年)7月30日から二泊三日にわたって創価学会学生部の第24回夏期講習会が日蓮正宗総本山大石寺内の大講堂で開催されていた。

 その期間中、会場をむんむんとした熱気で満たした学生部一同を前に、創価学会第三代池田大作会長は二つのことを確約した。
 生涯、自分は一庶民として徹し、栄誉栄達を求めることなく、いかなる賞も称号、栄典も受けない人生を貫く、と。この時、41歳の池田会長が、広宣流布を誓う純真な学生部員に対して、「無冠の人生」を明確に宣言した瞬間であった。
 同時に、もうひとつの意義深い約束がなされた。それは、世界広布のためには語学力が必要であり指導者が自らその姿を示す意味から、池田会長自身が五カ国語をマスターする、との決意表明であった。
 この確約は創価学会機関紙「聖教新聞」の夏期講習会における池田会長講演の記事にはなぜか記載されていない。原稿にはなかった内容であったのであろうか。真剣な眼差しの初々しい弟子達を面前にして、つい自分の願望か見栄が口から出てしまったのであろうか。ただ、この場に参加していた千数百名の学生部員の記憶の中には歴然として刻まれているはずである。

 この時から40年が過ぎ、池田氏は創価学会会長から名誉会長・SGI(創価学会インターナショナル)会長となり、創価学会は日蓮正宗から破門され異流儀の団体となり、当時の学生部員達も還暦を越える年代となった。また、40年の変化は池田氏の嗜好にも大きな変化となって現れている。殊に,勲章と社会的栄誉への執着が際立ってきた。昭和50年(1975年)にモスクワ大学から名誉博士の称号を贈られたことを契機に、池田氏の顕彰獲得に対する情熱は異常なものになってきている。
 かつて財団法人日本船舶振興会(現日本財団)の創始者である笹川良一初代会長は、内外からの国家勲章をはじめとする数多くの栄典を受章したことで知られていたが、池田氏は受けた顕彰の既得数でこの笹川氏をも大きく上回っており、既に日本で最多の顕彰獲得家となっていることは間違いない。
 特に、昭和56年(1981年)よりその数を増やし始め、最近では聖教新聞の一面は連日のように「SGI会長に名誉博士号」、「SGI会長に名誉市民」などの報道タイトルで飾られるようになっている。日本国内での受章や顕彰は皆無に近いが、海外からの栄誉受章はSGIの影響力が働かないイスラム圏を除いて全世界各地からにわたっている。その数は刻々と変わっているが、聖教新聞の集計によると、国家勲章が約30、名誉博士・名誉教授など大学・教育機関などからの称号が250以上、名誉市民・名誉県民などが600以上、とされているが,最近では池田氏の誕生日を祝しての国旗・州旗の証明書付掲揚など判断に苦しむものも混ざり始めており、また過去の顕彰の取消もあり、もはや顕彰数がどれほどになるのかわからなくなってきている。中にはどんな計算によるのか3800に達したと独自の集計結果をネット公表している池田信奉者 (創価学会員) も出始めている。
 いずれにせよSGIの全世界各地の組織幹部を総動員して池田氏の顕彰獲得に動いているのは間違いない。SGI幹部は何がなんでも顕彰の実績を作ることが池田会長の覚え愛でたきに適う道である、とばかりに邁進している姿が見え隠れしている。

 このように大量生産されている各種の顕彰であるが、その中でも、学会員に特に印象深く池田の偉大さを顕揚している栄誉が、「桂冠詩人」の称号であろう。
 まず、昭和56年(1981年)に《世界詩人会議・世界芸術アカデミー》から受章したとされる『桂冠詩人(けいかんしじん)』であり、次に、平成7年(1995年)に《世界詩歌協会》からの『世界桂冠詩人賞』の受賞である。また、平成19年(2007年)には同じく《世界詩歌協会》から『世界民衆詩人』という称号が贈られている。
 多くの学会員は、池田「博士」は、偉大なる世界的指導者であり、そして、文学、特に詩の分野でも世界各国の知識人・文化人から高く評価されている著名な詩人である、と少なからず思っており、それが真実であると信じたがっている。『桂冠詩人』の称号はまさにその証拠であり、自分たちの信仰が世界に通ずるものであり正しいものである証明である、との意識につながってくる。このような学会員の奥底のうやむやを晴らす特効薬ともなる、と池田氏の中枢周辺組織が考え、池田氏個人の願望とも一致した極めて象徴的な顕彰であったと思われる。

 池田氏自身も桂冠詩人と世界桂冠詩人の称号をいたく気に入っているようで、山本伸一名 (もしくは池田大作の本名) で聖教新聞などに掲載する詩には、これらの称号を併記する場合が多い。例えば,平成20年(2008年)4月開催の第7回全国青年部幹部会を記念し贈った詩では、桂冠詩人・世界桂冠詩人・世界民衆詩人の三称号を並記している。また、桂冠詩人受章20周年(2001年)、同25周年(2006年)には、池田氏の意向に沿ってSGI実行委員会主催で国内各地で盛大に記念展示会が開催され広報に努めている。また、平成20年(2008年)5月8日に、来日した中国の胡錦濤国家主席とホテルニューオータニで面談した際にも、恥ずかし気もなく「じつは私は『桂冠詩人』であり、『世界桂冠詩人』の賞もいただいています」と切り出しての自己紹介をし、詩人にとって詩を贈ることが最大の栄誉を贈ることと(自作であると印象付けて)漢詩を贈っている。

 桂冠詩人(英語では、Poet Laureateといい、月桂樹の詩人の意味)の名は、元来古代ギリシャ、ローマ時代に時の権力者に公式に選ばれた詩人に付けられ、詩人達が詩作を競い合い勝者に月桂樹の冠を載せて任命したことに基づいている。その後、神聖ローマ帝国を経て、英国にこの伝統が引き継がれ17世紀以降英国王室が公式証書に基づいて一名のみの継承者としての当代桂冠詩人を任命してきている。このため通常「桂冠詩人」というとこの英国の公式国定詩人のことを想起することより、世代まれなる最高峰の詩人という意味になる。
 当然のことながら、池田氏が受称した『桂冠詩人』も『世界桂冠詩人』も、この英国公定の桂冠詩人ではない。
 現在英国以外にも桂冠詩人の称号を公的に制定している国が幾つかある。例えば米国の場合は、アメリカ議会図書館が「議会図書館詩歌顧問桂冠詩人」(Poet Laureate Consultant in Poetry to the Library of Congress)を任命しており米国政府公定の詩人としての地位が与えられている。またこの連邦桂冠詩人とは別に多くの州でも、例えばオレゴン州桂冠詩人(Oregon State Poet Laureate)のように、州公定の桂冠詩人を任命している。いずれにしても米国人詩人であり当代一名が原則である。米国以外でもカナダ、ニュージーランドなどでこのような国定や地方政府公定の桂冠詩人制度が置かれている。このような公定の桂冠詩人の称号は、その国その地方政府の公式行事に際してその文化を象徴する意義を以て作詩とその朗読をする役目を担っており、自明のこととして外国人を任命・授章することはありえない。

 そこで、池田に桂冠詩人の称号を与えた《世界詩人会議・世界芸術アカデミー》(と創価学会は和訳していた)とはどのような団体・組織なのであろうか。
 これは、世界詩人会議・世界芸術文化アカデミー(World Academy of Arts and Culture. World Congress of Poets)(以下「WAAC/WCP」と略す)という民間組織を指している(実際には、後で説明するように、必ずしも正しくはない)。念のために述べると、世界詩人会議(WCP)(World Congress of Poets) に於ける世界芸術文化アカデミー(WAAC)(World Academy of Arts and Culture)とは、WCPの会員最大11名で構成されるWCPの執行委員会であると同時に顕彰を行う場合の決定機関である、とそのWCP憲章 (Charter of the World Congress of Poets [II]) の第Ⅳ条に規定されている。
 同じように呼称する団体が幾つかあるために、区別するために若干補足すると、WAAC/WCPの現在(2009年)の総裁 (president) はハンガリー人のDr. Isván Turcziであり、昨年まではフランス在住のDr. Maurus Youngが務めていた。経理担当役員(Treasurer)はMs. Michelle Wangであり米国カリフォルニア州に在住している。
 創価学会が池田の称号・顕彰を公表するときに、授与組織名と授与された称号の原文(現地語名)を並記せず和訳名のみで行っていることがあるため往々にして誤解が生じる余地があり、和訳を敢えて元の意味とは異なる改訳をしている場合も見受けられることより混乱が生じている。(そのため本文では煩雑になるが敢えて個々に現地語名を並記し精確を期している。)
 実は、WAAC/WCPとは別にもうひとつの世界詩人会議・世界芸術文化アカデミーが存在している。それは、国際桂冠詩人連盟(United Poets Laureate International)(以下「UPLI/WCP」と略す)であり、フィリピンで非営利・非株式団体(NPO)として証券取引委員会(SEC)に登録されている。この組織もWAAC/WCPと同様に、世界詩人会議(World Congress of Poets)と世界芸術文化アカデミー(World Academy of Arts and Culture)の呼称を並用して使い活動を行っている。UPLI/WCPの場合は、「世界芸術文化アカデミー」の位置付けがWAAC/WCPとは異なっている。WAAC/WCPの場合は、世界芸術文化アカデミーが世界詩人会議の中核の執行役員組織として位置付けされているが、UPLI/WCPの場合は、世界芸術文化アカデミーが世界詩人会議 (国際桂冠詩人連盟の別称的使い方をしている) の下部組織として位置付けされている。
 話が段々複雑になっているが、複雑な仕掛けをしているのは創価学会であり、それをほぐす作業もどうしても複雑になってしまうことご容赦願いたい。
 世界詩人会議・世界芸術文化アカデミーを称する団体が二つあると紹介したが、実は、その二つの団体は元々同一の組織として出発し、後で別れたいわば兄弟団体である。1963年にフィリピン桂冠詩人でカソリック教徒であったアマド・ユソン博士 (Dr. Amado M. Yuzon)がフィリピン人詩人数名と共に国際桂冠詩人連盟(UPLI)を結成した。その後1969年に国際桂冠詩人連盟及びその定款で規定する世界詩人会議(WCP)がフィリピン(及び米国)で正式に非営利団体として登記された。この正式設立の際、アマド・ユソンとインド人詩人のクリシュナ・スリニバス氏博士(Dr. Krishna Srinivas)など四名が創立者となっている。この世界詩人会議の創立者のひとりであるスリニバス氏が、その後インドで創価学会・池田氏と密接な関係となっている。
 三位一体の混合組織ともいえる国際桂冠詩人連盟・世界詩人会議・世界芸術文化アカデミーは、設立した年(1969年)にフィリピン・マニラで第1回の世界詩人会議を開催し、韓国・ソウルでの第4回(1969年)を最後にWAAC/WCPがUPLI/WCPから別れる形で二つに分離し、1982年以降は別々に1、2年毎に世界詩人会議を開催している。なぜ別れたのかは不明であるが、UPLI/WCPは、アマド・ユソンの息子のベンジャミン・ユソン工学博士(Benjamin R. Yuzon, M.E., hon. Ph.D.)が世襲する形でUPLI/WCP総裁(President)になっていることに関係しているかもしれない。

 以上のように世界的な組織としては、世界詩人会議は二つの別組織が現存するが、池田に桂冠詩人の称号を贈ったのはWAAC/WCP「系」である。
 ここで敢えて「系」と言っているのはなぜかというと、WAAC/WCP本体ではなく、インドの世界芸術文化アカデミー (World Academy of Arts and Culture, India)より贈られているからである。この事実は、SGIインド支部(インド創価学会) (Bharat Soka Gakkai)が公表している。WAAC/WCPはインドで世界詩人会議を開催することはあっても(1976年に第9回マドラス会議、2007年に第9回チェンナイ会議が開催されている)、インド支部を置いているわけではなく、インドには会員がいるだけである。
 WAAC/WCPの創立者の一人でありインドにおける中心的な会員の一人であるスリニバス氏が、世界芸術文化アカデミー(WAAC)の名前を使って「桂冠詩人」の称号を池田SGI会長に贈った、というのが実態と思われる。
 因みに、WAAC/WCPが世界各地で世界詩人会議を開催する都度、選ばれた会員詩人に対して表彰をしている。その賞は、2008年の第28回メキシコ・アカプルコ会議の場合であると、名誉文学博士(Honorary Doctorate of Literature)、名誉人文学博士(Honorary Doctorate of Huamnities)、総裁賞(Presidential medal)であり、過去に「桂冠詩人」を授章した形跡は見当たらない。念のために申し添えれば、UPLI/WCPもその年次会議の総裁(会員)に対して月桂樹の冠を贈るが、「桂冠詩人」の称号を贈ることはない。その副総裁には現役のテキサス州桂冠詩人、コロラド州桂冠詩人、英国女王桂冠詩人などが就任しており、自らが私的に桂冠詩人を他に授章することはありえない。
 次に、世界詩歌協会から贈られた世界桂冠詩人とは何か、ということだが、これはそれほど複雑な話ではなく、前述したインド人詩人のスリニバス氏が自ら総裁となってインドに設立した汎大陸世界詩歌協会(WPSI)(World Poetry Society Intercontinental)という(世界を意味する言葉が重ねて使われている)仰々しい名前の団体から、1995年に世界民衆詩人(World People’s Poet)という称号が池田SGI会長に贈られている。これはWPSIが授章した世界桂冠詩人の第1号とのことで、為にした感が拭えない。
 2007年10月に、インド・チェンナイでWPSIと(創価学会の外郭団体である)東洋哲学研究所、インド創価池田女子大学、インド創価学会が共催でシンポジウムを開催したが、その共同シンポジウムの場でWPSIのスリニバス氏総裁から池田SGI会長(川田洋一東洋哲学研究所所長が代理)に世界民衆詩人の称号を贈っている。尚、この直後の12月にスリニバス氏は94歳で亡くなっている。
 以上にて池田が愛用する「桂冠詩人」、「世界桂冠詩人」、「世界民衆詩人」の三つの称号の受章の背景を述べたが、この三つともインド人クリシュナ・スリニバス氏が深く関わっていることが確認できたことと思う。要は、体裁はどうであろうとも、スリニバス氏というインド詩人(桂冠詩人ではない)が個人の判断に近い形で池田に「世界的」な称号・タイトルを与えたということであろう。
 補足であるが、「カルトとしての創価学会=池田大作」の著者である古川利明氏はインドを訪問しスリニバス氏に直接取材を行っているが、その際スリニバス氏本人から池田SGI会長はスリニバス氏・WPSIの「パトロン」(Patron 資金援助者・支援者の意味)であることを確認している。

 最近の創価学会の公式ウェブサイト(SOKANet)の主な表彰一覧表では、「桂冠詩人」『世界桂冠詩人』の称号は姿を消しており、「世界詩人会議名誉総裁」との表示に替わっている。但し、この名誉総裁の表示自体も、少なくとも現在のWAAC/WCPの名誉総裁(Honorary president)は別人であり、UPLI/WCPの役員会にはそのような役職は置いていないことより、いずれにせよ生涯名誉称号ではないことが明白であることより、誤解を望まないのであれば抹消すべきと思われる。蛇足ながら、WAAC/WCPに400米ドルを送金すれば誰でも終身会員 (Life Membership)になれるので、『名誉総裁』ではなく「会員」と表記するのであれば全く問題ない。
 本文では「桂冠詩人」に的を絞ってその調査結果を報告したが、この調査を進める過程で他の称号や顕彰についても取得方法や意義に疑問が生じたものがあった。いずれこれらも明らかになることもあると思っている。
 スリニバス氏は昭和54年(1979年)7月に招日され、創価学会本部で池田SGI会長と面会している。おそらく池田氏は無けなしの外国語である「サンキュウ・ソウ・マッチ(大変ありがとう)」と応対したのではないか、と想像しつつ報告を終えたい。

(筆者注)この文は2009年9月に起稿したもので顕彰数などはその時点での数字である。また、資料収集に利用したウェブサイトURLとその時点でのコンテンツについては多数にわたるため参照を省略するが、筆者の責任で保存していることを補記する。